国際離婚の注意点と離婚定住(在留資格:定住者)、その他の在留資格への変更の検討
国際離婚の注意点
目次
国際結婚をして、夫婦共に日本で暮らす際には、結婚の手続きに加え配偶者ビザの取得など様々な手続きが必要ですが、国際離婚の場合もまた様々な手続きが必要になるとともに、国際離婚特有の注意点がありますので、今回は国際離婚の主な注意点等について解説します。
日本の離婚制度と海外の離婚制度
日本の離婚制度
日本の離婚制度には、協議離婚・調停離婚・審判離婚・判決離婚・和解離婚・認諾離婚の6制度が設けられていますが、ここでは協議離婚と調停離婚・審判離婚について解説します。
協議離婚
日本では、約9割近くが協議離婚により行われています。協議離婚の利点は、双方が離婚届に署名をし、役所へ提出するだけで手続きができるという点になります。しかし、このような簡単な手続きのみで離婚できるのは日本特有のものであり、海外の多くの国では、公的機関が許可しなければ離婚が認められないなど、何らかの形で公的機関が関与することが定められています。そのため、協議離婚では、海外の離婚手続きができない場合がありますので、注意が必要です。また、日本での手続きにおいても財産分与や養育費などの取り決めは、公正証書を作成しておく方が良いでしょう。
調停離婚・審判離婚
夫婦お互いの協議だけでは話がまとまらない場合には、家庭裁判所へ調停を申し立てることができます。調停は裁判所(調停委員会)での手続きではありますが、あくまでも当事者双方の話し合い、互譲が原則であり、裁判所(調停委員会)は当事者の話し合いが円滑に進むようにサポート役を担うことになります。
調停が成立した場合は、確定判決と同様の効力を生ずる調停調書が作成されますが、あくまでも日本国内でのみ効力を有するものなので、必ずしも海外でも認められるものではないことに注意が必要です。この場合は、協議離婚同様に海外での離婚手続きができない可能性があります。
そこで、「調停に代わる審判」を求めることになります。調停が成立しない場合、相当と認める場合には、裁判所は調停に代わる審判を出すことができます。海外での離婚手続きで、協議離婚や調停離婚が認められない場合、日本の公的機関である裁判所が出した、この調停に代わる審判がなされることがあります。
海外の離婚制度
海外の離婚制度は、国や地域によって様々ですが、裁判所等の公的機関が許可をしなければ離婚が認められないといった許可制を採用する国が多いことは、届出制を採用する日本とは大きな違いです。また、宗教的な色彩の濃い国では法律においてもこの宗教的考え方が大きく影響していて、そもそも離婚という概念が存在しないといった場合もある点には注意が必要です。
国内での離婚が海外で認められるかどうかの検討
準拠法
日本人同士が日本で離婚する場合、当選に日本の法律に基づいて手続きをすることになります。しかし、夫婦どちらかまたは、夫婦双方が外国人である国際離婚の場合、必ずしも日本の法律だけでは解決できない場合があります。「法の適用に関する通則法」第27条では、第25条の婚姻の規定を準用し、「夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合においては夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は日本法による。」としています。ただし書きの規定により、日本人と結婚し、日本人の配偶者等の在留資格で夫婦共に日本で暮らしているような場合は日本法により離婚することになりますが、それ以外の場合はどの国の法律が適用されるのか準拠法の検討が必要になります。
国際裁判管轄
国際離婚の場合、国際裁判管轄にも注意をする必要があります。国際裁判管轄とは、国際離婚のように当事者に関連のある国等が複数ある場合に当事者どの国が裁判権を行使しうるかという問題です。裁判権、すなわち司法は、立法・行政と並ぶ国家の主権であり、自国に裁判権がない場合にまで裁判を行うことは主権の侵害となるおそれがあるため、慎重に検討する必要があります。
子供の問題
国内離婚であっても、子供の親権や養育費など様々な問題がありますが、国際離婚の場合、国境を超えることから次の2点はより慎重な検討を要する問題となります。
国外への連れ出し
子供がすでに外国にいる場合、日本の裁判所には国際裁判管轄がないとの考え方から、裁判手続きが行われることがあまり多くありません。また、仮に裁判手続きにより子供の返還が命じられたとしても、外国にいる子供や、連れ出した親に日本の裁判所の判決は直接的にその実効力を有しません。日本に残された親は、外国の裁判所で子供の返還等を求める裁判手続きを行う必要があります。逆に外国で離婚して子供を日本に連れて帰りたいといった場合にも、現に子供がいる国の法律による外国裁判所の手続きが必要になってきますので、当該外国の法律に詳しい専門家の助言が不可欠になります。
ハーグ条約
国際離婚における子供の連れ出しの問題については、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」において国際的な取り決めがなされています。
面会交流
もう一つの大きな問題点として、面会交流があります。面会交流も当然に国境を越えて行われることになりますので、そのまま連れ去られるといった問題も完全には排除できません。また、平穏に面会交流が実施されるとしても渡航費や宿泊費など、国内離婚に比べ金銭的な負担もより大きなものになります。どのくらいの頻度で面会交流を行うのか、どこで会うのか、滞在期間などを慎重に検討しなければなりません。
離婚定住(在留資格:定住者)
国際離婚をした者が、現在「在留資格:日本人の配偶者等」の資格で日本に在留している場合、離婚により在留資格の要件を満たさず、在留資格の更新が認められないまたは、在留資格の取り消し処分となる可能性があります。
このため、「日本人「永住者」又は特別永住者である配偶者と離婚後引き続き日本に在留を希望する者」に対して、一定の要件のもと「定住者」(離婚定住)の在留資格が許可されることがあります。
要件
離婚定住が許可されるためには、実務上次の要件のいずれかを満たしていることが求められます。
- 日本において、おおむね3年以上、正常な婚姻関係が継続していた
- 生計を営むに足りる資産又は技能を有する
- 日常生活に支障がない程度の日本語能力があり、社会生活を営むのが困難でない
- 公的義務を履行している。又は履行が見込まれる
注意する点として、離婚定住への変更も他の在留資格同様必ずしも許可されるとは限りませんので、上記の要件を満たしていたとしても、申請は慎重に検討し綿密な立証資料の準備などが大切です。
その他の在留資格への変更の検討
国際離婚において、日本人の配偶者等の在留資格を有していた場合、前述した離婚定住への在留資格の変更を検討することになりますが、上記の要件を満たしていないなど離婚定住への変更が難しそうな場合で現在、仕事についている方などは就労系など別の在留資格への変更も検討してみましょう。
日本の入管法が定める在留資格は、いくつかの種類があり、その在留資格ごとに異なる要件が定められていますので、仮に離婚定住の要件を満たしていなくてもその他の在留資格の要件を満たしている可能性があるからです。
帰国の検討
国際離婚により、日本人の配偶者等の在留資格の要件を満たさず、また、他の在留資格への変更もできないような場合は、日本での適法な在留が出来なくなりますので、本国等への帰国を検討することになります。
仮に、現在の在留資格の在留期間が残っていたとしても、今後その在留資格が更新される可能性は低く、そのまま在留期間が満了してしまうとオーバーステイの状態になってしまいますので、速やかに身の回りの整理を済ませて出国をするように注意しましょう。
国際離婚は、離婚そのものの手続きにおいても日本法と当事者の本国法など外国の法律にも精通している必要があり、また、その後の在留資格の手続きにおいても入管法等の法令に精通している必要があります。少しでも疑問や不安がある場合には、専門家へのご相談をおすすめします。
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